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2013.07.08

海のある街    9'8 15

 強がりだ。でも、せっかくここまで独りで漕いできたのだ。やはり独りで帰りたかった。
 帰りは行きよりも大変だった。
 その大きな原因は強烈な向かい風だ。
 立って漕いでいられない。立って漕ぐと、風のせいで後ろへと流されてしまうのだ。
 もちろんそれはパドルを漕ぐことを含めた総合的な技量の問題だろう。もうひとりの参加者は風が比較的緩いときには立って漕いでいる。
 けれどぼくは緩い風でも前に進むスピードがあまりにも遅い。
 覚悟を決めたぼくは母度に座ったまま帰ることにした。中途半端に立ったり座ったりを繰り返すよりもその方が効率がいい。
 なによりもこの風だ。無理をするのは一番いけない。
 ぼくは座ったままパドルを漕いで戻ることにした。行きのときよりも風は強くなっているようだ。波もまた荒くなった感じで揺れる。けれどさすがに座ったままだとバランスに気を取られることなく、パドルの操作に集中できる。
 まず葉山の灯台を目指して漕いでいく。
 名島から離れると釣り船は減っていき、やがてぼく独りが海の上にいた。
 ときおり時計を見ながらパドルを漕ぐ。ちょっとずつだけど葉山の灯台が見えるようになってきた。
 強い風に吹かれながら、波に揺られているぼく。SUPのボードの上に、ただ独り。手にしているのはパドルだけだ。
 いいようのない孤独感をぼくは味わうのかと思ったけれど、しかしそれとはちょっと違った感覚を覚えていた。
 確かに海にひとりぼっちだった。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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