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2013.06.10

海のある街    TSUNAMI 21

 ぼくたちはピザはマルゲリータと釜揚げしらすが乗っているものを頼んで、ふたりで分け合って食べた。
「こんなにのんびりとランチを食べるの、とても久しぶり。ほら仕事場だとお弁当だし、休みの日はひとりでぼんやりと家で過ごすことが多いし」
「確かに場所で気分も変わるよね」
 ぼくは答えた。
「そう、ロケーションって大切なんだよ」
 美由紀さんは自分にいい聞かせるように頷いた。
「海が見えるところというだけで気分がいいのに、美味しいから嬉しいな」
 彼女はそういって微笑んだ。
 ゆっくりと食事をしたあと、ぼくたちは渚橋を渡ったところにあるコンビニでレジャーシートと缶ビールを買うと、また砂浜に戻った。
 シートを広げて、そこに座る。
 夏を思わせるような陽射しが気持ちよかった。ぼくはその場でごろりと横になると上を向いたまま眼を閉じた。
 潮の香りと波の音。そしてすぐ横にいる美由紀さんの存在を感じながら陽射しを浴びる。
「わたしも」
 目を開けると彼女もぼくの横でごろりと寝転がった。
 じっと青い空を見上げている。
「陽射しって、こんなに気持ちがいいんだ」
「うん」
「海を見ていると心のモヤモヤが消えていくみたいだけど、陽射しを浴びていると心にあったしこりを溶かしてくれるんだね」
 ふとその横顔を見ると目尻からうっすらと涙が流れていた。
「なに見てるの。あんまり気持ちいいから涙が流れてきただけ。これ、嬉し涙だから」
 彼女は照れ臭そうにいった。
「うん」
 ぼくはただ頷いて彼女の右手を探すと、そっと握った。
 すぐに彼女も握りかえしてくる。
 彼女がいま自分の心の中のなにを感じているのか、はっきりとは解らなかったけど、なにかに答えを見つけたように感じた。それは心の中に開いている穴と関係があるのかもしれない。その穴をしっかりと意識して、しかしそこから目を背けずにいられるようになったのか、あるいはまだなにか恐れることがあるのか。
 でも、前に歩いていることは確かなはずだった。
 自分の心に傷がついているかどうかもはっきりとは解らないぼくとは大違いのはずだ。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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