« 海のある街    9'8 7 | トップページ | 海のある街    9'8 9 »

2013.06.25

海のある街    9'8 8

 どん底の時期といってもいいかもしれない。たとえ海へいくことがあっても、それはつねになにか悩み事を抱えたままで、なにかを楽しむためではなく、ただ沈んだ色の海を見つめて溜息を零すことしかできなかった。
 その悩みのすべてが解決したわけではなかった。
 けれど、ようやくなんとか前を向いて歩いていくことができそうな時期になっていた。もちろんその代償としてぼくは妻を失うことになったけど。そして、いわゆる家庭というものの同時に失っていたし、また時間も失ってしまっていた。
 ただ、ちいさな一歩かもしれないが、しかし前へと踏み出せたとき、まずぼくが再開したかったのは海を楽しむことだった。
 その手段のひとつはもちろんSUPだ。
 美由紀さんと海の時間を過ごしてから二週間ほどが経った週末。ラッシュガードを着たぼくはようやくパドルを握って、海へと漕ぎ出すことにした。
 はじめてSUPを体験してから二年も経っていた。
 インストラクターのレイさんは、ぼくの再開を大いに歓迎してくれた。
「すぐに元の感覚を取り戻せるよ」
 そういってぼくを海へ送り出してくれた。
 とはいうものの、ぼくにしてみればドキドキものだ。まったくの初心者とはいわないまでも二年振りのSUPだった。まずは座ったまま海へと出ていくと、足がつかないぐらいの深さのところまでいってから、ボードの上に立ってみた。
 足が小刻みに震えている。
 はじめて立ったときとはほとんど変わらない。
 まわりをゆっくりと見回してみる。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

|

« 海のある街    9'8 7 | トップページ | 海のある街    9'8 9 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/476084/52169751

この記事へのトラックバック一覧です: 海のある街    9'8 8:

« 海のある街    9'8 7 | トップページ | 海のある街    9'8 9 »