« 海のある街    9'8 5 | トップページ | 海のある街    9'8 7 »

2013.06.21

海のある街    9'8 6

 ゆっくりと大きく息を吐く。
 海面を渡る風が気持ちいい。
 ぼくはパドルを漕ぎはじめた。
 他の人たちは慣れているからか、葉山の灯台の先の方へといってしまったようだ。さすがに、いまのぼくにそこまでいく技量はない。
 まず、ボードに慣れること。
 そう考えて、パドルを漕ぐ。
 でも、ちょっとしたことですぐにバランスを崩してしまう。そうなるとボードから海へ落ちてしまうことになる。いったん崩れたバランスをその場で立て直すことができないのだ。
 すぐ近くをウインドサーファーが横切っただけで、ぼくは海へ落ちる。遠くを走るモーターボードが立てた波がやって来ただけで、また落ちる。
 そんな具合で、いったいどれぐらいボードから落ちただろう。
 でも、その度にすこしずつではあるけど、バランスの取り方が解ってきたような気がした。もちろんまだ習得したというわけではない。
 そんなぼくだったが、海へ漕ぎ出して、そして海の上を渡る風を感じながら、その楽しさを味わうことができるようになっていた。
 爽快な気分だ。
 目の前には太平洋が広がっている。
 左手には葉山の灯台、右手には大崎。
 大きく弧を描きながら方向転換してみる。逗子の砂浜が遠くに見えた。
 ぼくは海の上に浮かんでいる。
 うねりに巻かれながら海を泳いでいるときに味わうやさしさとはまた別の感覚だ。自然と顔をつきあわせているそんな感じがするのだ。身体全体でそして五感のすべてで、海を、風を、そして自然を味わっている。
 いままでとはどこか違う感覚がぼくの中で芽生えたような気がする。
 潮の匂い、風の方向、そして海の表情。そのすべてを身体全体で感じることができる。とても不思議な感覚だった。
 独りで海の上にポツリと浮かんでいるのに、どこかでなにかときちんと繋がっている。そんな充実感を伴っていた。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

|

« 海のある街    9'8 5 | トップページ | 海のある街    9'8 7 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/476084/52117698

この記事へのトラックバック一覧です: 海のある街    9'8 6:

« 海のある街    9'8 5 | トップページ | 海のある街    9'8 7 »