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2013.06.17

海のある街    9'8 2

 プールならコースロープがあるから多少ずれたとしてもそれなりに真っ直ぐ進んでいくことができる。
 ところが海ではそういう訳にはいかない。
 だから何度も方向を確かめるために顔を上げる必要がある。そうなると普通の息継ぎとは違って、大きく前方を見るようにして顔を上げなければいけない。
 結果として、フォームはともかく海水に身体を預けて、手足で水を掻き、進むだけということなる。なんだかプールでの泳ぎとはまったく別のことをやっているようだった。
 それに海にはいろいろなものが浮いていることがある。
 海藻が漂っていたりクラゲがいたり。
 これはこれでやっかいなものだ。
 大きな海藻の塊が顔にまとわりつくと、そこで泳ぐのをいったん止めて、取り除かなければいけない。もちろん、足がつかない場所でなら立ち泳ぎをしながらということになる。
 アンドンクラゲに刺されて、何度も痛い思いもした。刺された肘にしばらく痕が残ったほどだ。
 それでも海で泳ぐことを続けていくと、これはこれでとても楽しいことだと実感できた。プールでは泳ぐということをとても意識することになるが、海では違った感覚を味わうことができたからだ。それは一体感だった。
 海との一体感。
 この感覚はいままで半世紀以上生きてきたぼくが経験したことのない、とても素晴らしいものだった。
 泳ぐのに疲れたらそのまま仰向けになって波間に漂ってもいい。ただ、そこに浮いているだけで、なんだかとても大きな存在に抱かれている感じになる。
 この感覚に気がつくと、海で泳ぐということの意味が大きく変わっていった。そう、それはスイムではなく、海といっしょになって遊ぶということに近いのかもしれない。
 うねりに巻かれたり、あるいは潮の流れに乗って思わぬ方向へと進むことも楽しくなってくる。
 プールでは絶対に体感することのできない浮遊感もまた心地いいものだ。
 そうやってすっかり海という存在に慣れたぼくはようやくスタンドアップパドル──SUP──にチャレンジすることでできるようになった。
 もうすこしで八月も終わろうとしていた土曜日のことだった。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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