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2013.06.14

海のある街    9'8 1

 はじめて逗子海岸にシートを広げてランチを楽しんでいたときのことをいまでも覚えている。
 海で食事をする開放感も素晴らしく、ビールが美味しかったこともあるんだが、そのときに見た景色が印象的だったからだ。
 黄色のビキニを着た娘が、手にはパドルを持ち、ボードの上に背筋をピンと伸ばして立つとそのまま海面を滑るように移動していた。まるで海の上を散歩しているようだった。
 長く伸びた髪が彼女の背中で海を渡る風に揺れている。強烈な陽射しを浴びながら受ける風が気持ちよさそうだった。
 なによりも逗子湾のとても静かな海にぴったりの風景だった。
 それがスタンドアップパドルというマリンスポーツだと知ったのは、その日、帰宅してからのことだった。
 ぼくは家に帰るとすぐにWebサイトを検索してそれに関するページを見つけた。
 逗子海岸にはいくつもスクールがあることもわかった。
 いつかやってみたいマリンスポーツ。
 こういうことにあまりチャレンジをしたいと思う方ではなかったぼくだったが、それはちょっとした決意になった。
 その決意が現実になったのは、逗子に引っ越しをした次の年の夏の終わりだった。
 逗子に住むようになって二回目の夏。海で泳ぐことにもすっかり慣れ、多少のことがあっても大丈夫と思えるようになってから、ぼくはスタンドアップパドルにチャレンジすることにした。
 海が身近な存在であれば、すぐにもはじめることができたんだろう。
 けれど、海と接点がほとんどなかったぼくにとって、ボードの上に立って沖へ出るということにはそれなりの覚悟は必要だった。
 この年の夏、ぼくは毎日のように海で泳いだ。朝、起きると海岸をジョギングして、そのまま海で泳ぐことを日課にしたからだ。
 しかし、プールで泳ぐことと海で泳ぐことはまったく違った。
 日吉に住んでいた頃は週に一度プールへ通っていたので泳ぐことに対して抵抗はなかったはずだったが、逗子の海で最初に覚えたのは戸惑いだった。
 波と潮の流れ。
 ぼくを途惑わせたのはそれだった。
 ちいさな波ならそれでもなんとかなるんだが、ちょっとしたうねりが入るとちゃんとしたフォームで泳ぎ切ることができない。波に巻かれると上下の感覚すら怪しくなってしまう。そして潮の流れ。目指していた方向とはすこしずつずれてしまう。


※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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