海のある街 TSUNAMI 9
ぼくはすぐに答えられず彼女の顔を見た。
静かにただ微笑んでいた。
「結婚式を挙げる直前に事故で死んじゃったんだ」
彼女はそういうとジョッキに手を伸ばした。
「そうだったんだ。ごめん」
ぼくはいった。
「べつに謝ることじゃないから大丈夫」
そういって彼女は頷いた。
「はじめの頃はね、そんな話もできなかったんだ。ショックで」
彼女はそう続けて、ジョッキに口をつけた。
「当然だと思う」
ぼくはそう思った。
「で、しばらくしてなんとか友だちと話ができるようになった頃に気がついたの。心の中にね、大きな穴が開いていることに」
「心の中に?」
「そう、ぽっかりとね、とても大きくて深い穴が開いてしまっていたの。自分でもどうしてそんなものが心の中に開いてしまったのかよくわからなくて、もの凄く途惑ってしまったわ。ふっとした瞬間に、心の穴に自分自身がすっぽりと入り込んでしまうと、もうなにも考えられず、なにもできない状態になっちゃうの」
彼女は両手に挟むようにして持っているジョッキを見ながら話した。
「ずいぶんそんな時期が続いちゃった」
そういって頷くと彼女はビールをひと口飲んだ。
「なんとなく想像することができるかもしれない」
ぼくは答えた。
「そう?」
そういうと美由紀さんはじっとぼくの眼を見た。
「自分自身もそうだけど、傷ついた人をいままでいろいろと見たことはあるから」
そういいながら、ふっと八年間も傷つき続けているといっていた中野のマスターのことを思い出していた。
自分の心の傷をそうやって認識できる人もいれば、ぼくのようにぼんやりとしかその痛みを感じることができない人もいる。そして目の前の彼女は、きっともっと大きななにかを抱えているんだろう。
※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。
静かにただ微笑んでいた。
「結婚式を挙げる直前に事故で死んじゃったんだ」
彼女はそういうとジョッキに手を伸ばした。
「そうだったんだ。ごめん」
ぼくはいった。
「べつに謝ることじゃないから大丈夫」
そういって彼女は頷いた。
「はじめの頃はね、そんな話もできなかったんだ。ショックで」
彼女はそう続けて、ジョッキに口をつけた。
「当然だと思う」
ぼくはそう思った。
「で、しばらくしてなんとか友だちと話ができるようになった頃に気がついたの。心の中にね、大きな穴が開いていることに」
「心の中に?」
「そう、ぽっかりとね、とても大きくて深い穴が開いてしまっていたの。自分でもどうしてそんなものが心の中に開いてしまったのかよくわからなくて、もの凄く途惑ってしまったわ。ふっとした瞬間に、心の穴に自分自身がすっぽりと入り込んでしまうと、もうなにも考えられず、なにもできない状態になっちゃうの」
彼女は両手に挟むようにして持っているジョッキを見ながら話した。
「ずいぶんそんな時期が続いちゃった」
そういって頷くと彼女はビールをひと口飲んだ。
「なんとなく想像することができるかもしれない」
ぼくは答えた。
「そう?」
そういうと美由紀さんはじっとぼくの眼を見た。
「自分自身もそうだけど、傷ついた人をいままでいろいろと見たことはあるから」
そういいながら、ふっと八年間も傷つき続けているといっていた中野のマスターのことを思い出していた。
自分の心の傷をそうやって認識できる人もいれば、ぼくのようにぼんやりとしかその痛みを感じることができない人もいる。そして目の前の彼女は、きっともっと大きななにかを抱えているんだろう。
※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。
| 固定リンク
コメント