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2013.05.22

海のある街    TSUNAMI 8

 彼女のグラスも空いたので、ぼくらはお代わりを頼んだ。
 お代わりのジョッキを両手で持ち上げたまましばらくぼくの左手を見ていた彼女は小さな声で訊いてきた。
「指輪、してた?」
 左手の薬指を見ながらぼくは頷いた。
「外して半年になるけど、まだすこしだけ痕が残ってるね」
 そう答えてぼくは彼女の手を見た。
 ウェーブのかかった髪からときおり覗く耳にはピアスが下がっているのに、どの指にも指輪はなかった。
 ぼくの視線に気づいたのか、彼女はすこしだけ哀しそうに微笑んだ。
「半年か……、別れたの?」
「うん」
 ぼくはただ頷いた。
「どれぐらい結婚してたの」
 彼女はおずおずと訊いてきた。
「ふた昔とちょっとかな」
 ぼくはそう答えると、またジョッキに口をつけた。
「うん」
 彼女はこくりと頷いた。
 それからすこしだけ沈黙がつづいた。ぼくは冷めてしまった焼き鳥を取ると口に入れた。具についているタレのべとついた甘さが口の中に残った。
「わたしは六年」
 突然、美由紀さんが口を開いた。
「六年って?」
「彼が死んで六年なの」
 ぼくはすぐに答えられず彼女の顔を見た。
 静かにただ微笑んでいた。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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