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2013.05.29

海のある街    TSUNAMI 13

 ぼくはどうしていいのかわからず、しばらくそこに立っていたが、やがてその頬を伝う涙を右の親指でそっと拭った。
 それでも涙が零れていく。
 彼女はふいにぼくに抱きつくとしばらく顔を胸に沈めたまま、静かに泣いた。
 シャツの胸の部分が涙で濡れていく。
 ぼくは両腕を彼女の背中に回して、そっと抱いた。
 声を上げない嗚咽がしばらく続いた。
 やがてしがみついていた彼女の腕の力がふっと抜けた。
 ぼくの腕の中で彼女が顔を上げた。まだ涙が流れたままだった。
 その頬にぼくは右手をやり、顔をすこし持ち上げるとそっと口づけをした。
 彼女の涙の味がした。
 どれぐらい唇を重ねていただろう。
「ごめん」
 ぼくは顔を離すと謝った。
 ふいに今度は彼女が唇を重ねてきた。
 それはさっきまでの口づけとは違って激しいものだった。
 ぼくもそれに応える。
 彼女の腕に力がこもり、ぼくも彼女をしっかりと抱きしめた。ぼくたちは唇をむさぼるように重ね、きつく抱きあった。
 やがて彼女は身体を離すと、いきなりぼくの左手を握りそのまま引っ張るように歩き出した。さっきまでとはまた違った勢いのある歩き方だった。ぼくは引っ張られるまま彼女に着いていく。
 さらにワンブロックほど歩くと、前にちいさなマンションがあった。彼女はそのままエントランスを抜けて、エレベーターの前を通り抜け、廊下を奥まで歩くと階段を登りはじめた。まるで怒っているような歩き方だった。
 三階まで登ると、廊下に出て、ふたつ目の部屋のところで立ち止まった。
 ぼくの手を離すと、バックから鍵を取り出して、玄関のドアを開けた。
 ふたたびぼくの手を掴むとそのまま中へ引っ張り込んだ。彼女は家に入ると、後ろ手にドアを閉め、鍵をかけてからぼくに抱きついてきた。
 唇を重ねる。
 さっきまでの激しさは影を潜め、優しく互いの心を確かめるような口づけだった。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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