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2013.05.28

海のある街    TSUNAMI 12

 電車を降りると、改札を抜けて、商店街の中を歩いた。
「十分ちょっとかかるけど、いいの?」
 彼女が尋ねてきた。
「今日だけは甘えるんでしょ。大丈夫だよ」
 ぼくは答えた。
「帰り道、平気?」
 ちょっと心配そうに彼女は訊いてきた。
「こうみえても方向感覚はバッチリなんだ。知らない街を歩いていてもちゃんと目的地には着けるから平気だよ」
「うん」
 ぼくの言葉に彼女は嬉しそうに頷いた。
 彼女はときおり真っ暗になった空を見上げたり、道路を見たりしながら歩いていた。
 もうちょっとで商店街を抜けようとしていたときに、ふいに音楽が流れてきた。ちいさなCDショップがあった。音楽はそこから聞こえてきていた。
 その瞬間、美由紀さんは凍り付いたようにその場に立ち止まった。
 ぼくの左腕に右腕を絡めるようにしてぼくにしがみついてきた。
「ごめん……」
 彼女の口からしばらくして言葉が零れてきた。
「この曲、駄目なの……」
 彼女は不意にぼくの左腕を引っ張るようにして歩き出した。いままでのゆっくりとした歩調ではなく、なにかから逃れるようなそんな歩き方だった。
 聞こえてきたのはサザンオールスターズが歌っている「TSUNAMI」だった。
 ぼくは彼女に引っ張られるまましばらく歩いた。やがて一軒家やマンションが立ち並ぶ一画に来ていた。四つ角に立った街灯がぼんやりと交差点を照らしていた。カーブミラーの横を通り過ぎたところで彼女は立ち止まった。
「ほんとうに、ごめんなさい……」
 彼女の声がすこし震えていた。
 向き合って顔を見ると、その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
──心の中の穴……。
「あの曲、彼が大好きだったの。いつもカラオケで唄って、結婚式でも絶対に流そうねって……」
 彼女の眼からさらに涙が零れていた。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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