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2013.05.27

海のある街    TSUNAMI 11

 気がつくと九時を回ろうとしていた。
 彼女はどうしても割り勘がいいと主張したので、そのまま半分ずつ払うことにした。
 ぼくたちは会計を済ませると外へ出た。
「ありがとう」
 そういって彼女が手を差しだした。
「こちらこそ」
 そう返答して、ぼくは軽く彼女の手を握った。すこし冷たい手だった。
「男の人とこうしてお酒飲んだの、きっと六年ぶりだよ」
 そういって彼女は微笑んだ。
「ぼくも女性とふたりでこうして飲んだのは、何年ぶりだろう。覚えていないよ」
 ぼくも笑った。
 ぼくたちはそんな話をしながら私鉄の駅を目指して歩きはじめた。
 連れだって改札を抜けると、ぼくは彼女と一緒にホームへの階段を登りはじめた。
「ねぇ、方向が違うんじゃない?」
 彼女が首を傾げた。
「楽しい時間をもらったから、家の近くまで送るよ。そんなに遠くないんでしょ」
 ぼくはいった。
「急行があれば二十分ぐらいだけど、いいの?」
「明日休みだし、構わないよ」
「じゃ、今日だけは甘えちゃう」
 彼女は納得したように頷いた。
 ほどなく各駅停車がやって来た。ぼくたちはそれに乗ると、途中の駅で急行に乗り換えて、彼女の家のある駅へと向かった。
 電車の中では居酒屋での会話の続きといった感じで他愛のない話が続いた。
 ときおり彼女の見せる屈託のない笑顔が可愛かった。
 そんな彼女の笑顔を見ながら彼女の心の中に開いている穴についてぼくは考えていた。それはいったいどんな大きさで、どんな深さなのか、まったく想像がつかなかった。それと向き合ったとき、いったいどんな感情が湧き上がるのか、すこし怖い気もした。
 それにくらべるとぼくが抱えているかもしれない心の傷は、もしかしたあまりにも軽いものなのかもしれない。
 それとも、ただ、ぼくが鈍いだけなんだろうか?
 自分の心の傷のこともわからないほど……。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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