海のある街 TSUNAMI 15
飲み物がないからと近くのコンビニへ一緒に買い物にいき、お酒やつまみを買ってくると向かい合って、互いの生い立ちなんかを話しあった。
彼女は香川の坂出市で生まれ、大学のときに東京へ出てきていた。三つ歳上のお兄さんがいて、彼と一緒に住むならという条件で家を出ることができたらしい。
「お兄ちゃんがいなかったら、わたしはきっと四国から出ることはできなかった思う」
美由紀さんはそんないい方をした。
大学を卒業してちいさな広告代理店で働き出して、彼と知り合ったそうだ。
彼が亡くなったとき、家族は郷里へ戻るようにと何度も説得したが、彼女は頷かなかったらしい。家に帰ってしまうと彼との接点のすべてを失ってしまうようでとても怖かったといっていた。
そんな彼女を彼女の兄はいまでもしっかり支えてくれているらしい。
「感謝してもしきれないの」
彼女はそういって微笑んだ。
ぼくたちはひとしきり話をしたあと、ベッドへ戻り、どちらからともなく求め合い、もう一度身体を重ねると眠った。
カーテンの隙間から零れてくる朝陽で眼が醒めた。
すぐに枕元のiPhoneで時間を確かめた。七時を回ったところだった。
いつもとあまり変わらない時間。ただ、すぐ横に美由紀さんの寝顔があった。
頬にかかっている髪をそっとかき上げると、彼女は眼を醒ました。
「おはよう」
彼女はぼくを見たまま声には出さず唇だけを動かした。
ぼくは答える代わりに口づけをした。
そのままもう一度彼女を抱き寄せて、彼女の温もりを全身で感じた。
心地いい温もりだ。
朝陽を浴びている彼女の顔はとても綺麗だった。
ぼくたちはまた交代でシャワーを浴びると食事を摂った。
トーストに目玉焼き。ウインナーとサラダ。それに珈琲だ。昨日買った豆を使ってぼくが淹れた。
「とてもおいしい」
美由紀さんはそういって珈琲を飲んでくれた。
あれから毎日のように淹れているから、どうやらすこしは上達したようだった。ぼくはすこしだけ嬉しくなった。
※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。
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