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2013.05.02

海のある街    風の街 9

 潮風を胸一杯吸い込んで、ぼくは海から戻ることにした。
 また富士見橋を渡り、バス通りを田越橋まで歩いた。葉山から戻ってくるバスはこの交差点で左折して駅へと向かう。この信号から先の道路は生活道路のようなもので対面通行も工夫しないとできない幅だ。
 交差点を越えて三十メーターほどいくと田越川を渡る歩行者のための小さな橋があった。
 この橋を渡って、川の向こう側を歩いていくとそのまま京急の新逗子駅へといくことができる。
 ぼくはその橋を渡って、木立が立ち並ぶ川沿いの道を駅の方へと歩き出した。
 このあたりをいままでほとんど歩いたことがなかった。ゆるやかに左にカーブする川に寄り添うように道も曲がっていた。すこしいくと、ちいさなギャラリースペースがあった。
──zishi art gallery。
 街の中にこういうスペースがあるのは嬉しい。
 その佇まいといい、空間といいなんとなく逗子に似合っていた。ちょうど個展を開いているところだったようで、ぼくはその中へと入ってみた。
 そこにはガラスで創られた作品が展示されていた。
 いろいろなサイズの額の中に、さまざまな色と形をしたガラスをコラージュして創られた作品群。素材感とともに質量を伴った不思議な作品が並んでいる。
 大きな額で創られた作品がぼくの目に止まった。
「風の街」というタイトルのその作品からは、懐かしいちょっと埃っぽい風の匂いと、それから風が吹き抜ける音が聞こえてくるようだった。
 ゆっくりと壁に並んだ作品を観ていると、入り口の扉が開いて、女性がひとり入ってきた。どうやら買い物から帰ってきたようだった。展示している作品の作者だろう。
「あら、いらっしゃい」
 柔らかい笑みだった。
 シャツの上にカーデガンを羽織り、すこし長目のスカートを穿いていた。その上に薄手のコート纏っている。
 彼女はコートを脱ぐと手早く折りたたんで、奥にある机の引き出しにしまった。
 長い髪が揺れている。
「もしよかったらお茶でも飲みませんか?」
 彼女は買ってきたばかりのコンビニの袋から大ぶりのペットボトルを取り出しながらいった。
「それじゃ、すこしだけ」
 なんて答えたらいいのか迷ったぼくはそんな言葉を返した。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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