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2013.05.10

海のある街    風の街 15

 こうして部分部分を作り上げて積み上げていくことができれば、もしかするといままでできなかったことができるようになるかもしれない。
 何度も何度も練習をして、ぼくはなんとか「The Sage」を通して弾くことができるようになっていた。
 TAB譜を見つけてから三週間ほどが経っていた。
 また弦が切れ、新しい弦のセットに張り替え、Greg Lake本人が唄っている映像をネットで見つけることもできた。おかけで指の運びを確認することができた。
 映像を観てみると、あたり前の話だがGreg Lake本人はいとも簡単に弾きこなしている。
 何度も間違え、支えながらでないと弾けないぼくはちょっと悔しかった。
 ギターは、この歳のぼくに新鮮な感覚を教えてくれた。
 高校生や大学の頃とは違った感覚だった。
 それは音の響きだ。
 ギターという楽器が持つ響き。開放弦がどうして六弦から順に、EADGBEになっているのか、はじめて解った瞬間でもあった。弦をつま弾くと楽器全体が響くのだ。ギターのボディが弦の響きに共鳴して、音を奏でている。
 とてもシンプルなCというコードを弾いただけでも、その響きの美しさを感じることができるようになっていた。
 いままでに感じたことのなかった感覚だ。
 この歳になってはじめて識った楽器を弾くことの喜び。
 そう、ぼくはこうしてすべてを捨てようとすることで、すこしずつ変わっている。きっとこれからもまだまだ変わっていくだろう。
 そのことに気づかせてくれたのは、この逗子に引っ越しそうと決めたことが切っ掛けにになっている。あのまま日吉に住んでいたら、それまでに纏っていたものの上に、さらに別のなにかを纏い続け、ギターの音の響きに感動することもない自分のままでいたかもしれない。
 あれからWebサイトでときおり彼女の作品を眺めるようになった。
 それはたとえばJames Taylorの優しい歌声を聞いているときだったり、Eric Claptonが紡ぎ出す音色に聞き惚れているときだったりするんだが、あの風の音を感じたくなると彼女のサイトを訪れて「風の街」をいつまでも眺めることがあった。
 その風の音を感じながら、ぼくはとてもシンプルな答えに辿り着くことができた。
 どうして逗子なの?
 その答えだ。実に簡単なものだ。
 それは、この街に海があるからだ。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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