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2013.05.07

海のある街    風の街 12

 新しい年を迎えた。
 けれど、ぼくの生活が大きく変わることはなかった。ただひとつ、独りになったということを除けば。
 生活が変わることはあまりなかったが、しかしぼく自身はなにか大きな変化を感じていた。それは引っ越しをするときに感じた、持ち続けてきたモノを捨て去るときということと大いに関係している。
 持ち続けてきたモノの中には、オブジェクトとしてのモノ以外にもあることが解ったからだ。
 それはたとえていうと、いままで生きてきてぼくが身に纏ってきたモノといってもいいだろう。
 雨が降るとレインコートを着るように、そのとき、その場に合わせてなにかを身につける。けれど、それを脱いでまた別のなにかを着るのではなく、人は纏ったその上にさらに別のモノを纏うこともあるようだ。
 それは仕事をしているときの顔であったり、あるいは結婚をしてふたりで住みはじめたときの顔であったり、あるいは知り合いの人と会うときの顔であったり。そうやっていくつもの自分自身を纏って歳を重ねて来てしまったように思う。
 意図して纏ったモノもあるだろう。けれど中には意識しないうちに身についてしまったモノもあるはずだ。
 そういったモノをすべて捨て去る。
 これは独りにならなければできないことだったのかもしれない。もちろんそれには、ぼくにとってはという注釈をつけておいた方がいいかもしれないが。
 服を一枚一枚脱ぎ捨てるように、ぼくが纏ってしまったモノを脱ぎ捨ていく。
 ほんとうの裸になった自分を見たときに、見えるモノ。それが、きっと本来の自分自身なのだ。
 鏡に映る自分の姿を見ることは簡単だ。
 けれど、それが自分自身を見ることにはならない。鏡に映っているものはあくまでも虚像にすぎない。
 本来の自分は、自らの心で観るしかない。
 そのために、ぼくはきっとこうやってすべてを捨てる時期を迎えたのだろう。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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