海のある街 ペーパーフィルター 9
珈琲を淹れるためには、豆を買わなくてはいけない。ペーパーフィルターだけでは淹れられない。
どこで買おうかいろいろと悩んでしまった。
というのも、いまぼくが住んでいる逗子にはいわゆる専門店がないのだ。袋に詰められ、スーパーの棚に並んでいるコーヒー豆を買うなら、元妻が飲んでいたように、コーヒーメーカーとか、それこそインスタントのパック式のもので充分だ。
せっかくだからちゃんとした豆を買いたい。
マスターがいっていたのは、煎った豆は一週間で駄目になる。挽いた豆は三日で駄目になる、ということだった。学生だったぼくは、あの頃、電動ミルを買って、マスターに調節してもらい、それを使って珈琲を淹れる前に豆を挽いていた。
ただ、いまのぼくはさすがにそこまでやる気はなかった。
百グラムの豆を挽いてもらって、三十グラム使えば、三杯で消費できる計算だ。これならほぼ三日で呑み終わる。一日に二杯呑むつもりなら二百グラムでいい。
どうしようかと思っていたんだが、ある日、仕事先をぶらぶら歩いていたら、珈琲の専門店を見つけた。ただ豆を売っているだけではない。そこで焙煎もしている。
しかも紅茶の種類も豊富に置いてある上、カップやグラス、珈琲を淹れるための道具や紅茶のポットまで用意されていた。仕入れができる卸店のような塩梅だ。
ここならまともな豆が買えそうだった。
「珈琲豆をください」
レジに立っていた女性に声をかけた。
「はい、なんになさいます?」
眼鏡を掛けた女性だった。中学生の子どもがいてもおかしくない年代だろうか。
「マンデリンってありますか?」
「ええ、ありますよ」
そういいながら、レジから離れるとコーヒー豆が入ったケースのところへ歩いた。
ぼくもいっしょに豆のケースのところへついていく。
ケースの中の豆は薄いグリーンをしていた。
「この豆って、まだ煎ってないんですか?」
「ええ、これからお好みの度合いで焙煎します」
女性は笑顔で返した。
※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。
どこで買おうかいろいろと悩んでしまった。
というのも、いまぼくが住んでいる逗子にはいわゆる専門店がないのだ。袋に詰められ、スーパーの棚に並んでいるコーヒー豆を買うなら、元妻が飲んでいたように、コーヒーメーカーとか、それこそインスタントのパック式のもので充分だ。
せっかくだからちゃんとした豆を買いたい。
マスターがいっていたのは、煎った豆は一週間で駄目になる。挽いた豆は三日で駄目になる、ということだった。学生だったぼくは、あの頃、電動ミルを買って、マスターに調節してもらい、それを使って珈琲を淹れる前に豆を挽いていた。
ただ、いまのぼくはさすがにそこまでやる気はなかった。
百グラムの豆を挽いてもらって、三十グラム使えば、三杯で消費できる計算だ。これならほぼ三日で呑み終わる。一日に二杯呑むつもりなら二百グラムでいい。
どうしようかと思っていたんだが、ある日、仕事先をぶらぶら歩いていたら、珈琲の専門店を見つけた。ただ豆を売っているだけではない。そこで焙煎もしている。
しかも紅茶の種類も豊富に置いてある上、カップやグラス、珈琲を淹れるための道具や紅茶のポットまで用意されていた。仕入れができる卸店のような塩梅だ。
ここならまともな豆が買えそうだった。
「珈琲豆をください」
レジに立っていた女性に声をかけた。
「はい、なんになさいます?」
眼鏡を掛けた女性だった。中学生の子どもがいてもおかしくない年代だろうか。
「マンデリンってありますか?」
「ええ、ありますよ」
そういいながら、レジから離れるとコーヒー豆が入ったケースのところへ歩いた。
ぼくもいっしょに豆のケースのところへついていく。
ケースの中の豆は薄いグリーンをしていた。
「この豆って、まだ煎ってないんですか?」
「ええ、これからお好みの度合いで焙煎します」
女性は笑顔で返した。
※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。
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