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2013.04.09

海のある街    ペーパーフィルター 7

「ブルーマウンテンって」
「生産量が少ないんだよ。ちゃんとした量が入ってこないから、なかなか出せないんだ」
 マスターも自分用のカップに淹れて飲んでいる。
「どう?」
「美味しいよ」
 まるで試されているようだったので、とりあえずそう答えた。
 美味しい。でももっと個性的な味なのかと思っていた。
 そう思いながら氷水を口に含んだ。
 そのとき、思いも寄らない味を感じた。
 甘かった。ただの氷水なのにとても甘い。
 ということは──
「水が、甘い」
 ぼくは感じたままのことをいった。
「ほんとうの苦さなんだよ、これが」
 マスターはそういって頷いた。
 いつしかレコードが終わっていた。プレイヤーのところへ歩み寄ると、マスターはレコードを仕舞い、別のレコードをターンテーブルに乗せた。ていねいに針を落とす。
 音楽が流れはじめ、ぼくは思わず苦笑した。
 ジャニス・イアンだった。
「なんで?」
「ほら、こういうことは何度も味わっておかないと」
 ジャニス・イアンには曰くがあった。
 この店を知る半年ほど前、ぼくはこっぴどいフラレ方をして落ち込んでいた。原因はぼくにある。けれど、なにもそういった別れ方を選ばなくてもと思うような形でフラれたのだ。
 ぼくをフッたその彼女が大好きだったのが、このジャニス・イアンだった。
「傷口に塩を塗るってわけだ」
 ぼくは皮肉っぽくいった。
「傷はそのまま放っておくより、こうやって何度も何度も繰り返すことで綺麗に消えるんだよ」
 マスターは腕組みをして頷いた。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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