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2013.04.02

海のある街    ペーパーフィルター 2

 中野の北口にあるサンモールという商店街をまっすぐ歩いて、ブロードウェイの手前で右に折れたところにその店はあった。
 カウンターが十席ほど。その他に二人用のテーブルがふたつだけ、しかも壁に作り付けの小さなテーブルがあるとても狭い店だった。
 営業時間がきちんと決まっているわけではない。昼頃には店を開け、客がいる間はやっている。ときには明け方まであれこれ話し込んでしまうこともあったぐらいだ。
 大学の四年ともなると、授業はほとんどない。だから、ぼくらはこの店に入り浸っていた。なにかあるわけではないけど、とても居ごごちのいいところだった。夕方になるとこの店で珈琲を飲むのが一種の決まりごとのようになっていて、ほとんど毎日のようにここにいた。
 この店にはメニューはあるが、じつは素っ気ない。珈琲だとアメリカンのような軽めのものか、ちょっと苦みと深みのある珈琲しか書いていない。客の好みによってブレンドした豆で淹れるのが、どうやらマスターの主義のようだった。
 その癖、紅茶となるときちんと銘柄が書いてあって、ダージリンやアッサム、セイロンはもちろんウバなどがあった。
 ぼくが好きだったのはキームンだ。中国の紅茶でやや甘い香りがする。ただこの香りに騙されてはいけない。ちゃんとした紅茶はカフェインが多い。キームンを飲んだ日はたいてい眠れなくて、明け方まで本を読んだり、仕方ないからレポートを書いていたりしたことがあった。
 頼めば日本茶も出してくれる。しかも、玉露だけ。これは一度だけ飲んだことがあった。日本茶の美味しさをはじめて実感したのもこの店でだ。
 その他にはココアもメニューにある。ただし、マスターはこだわる方なのでココアを頼むとパウダーを牛乳で徹底的に練る。それもかなり時間を費やして練る。これは傍目に見てもかなりの重労働だった。だから、ぼくら常連たちはココアを頼むときはほとんどマスターに対する罰ゲーム的な意味合いが籠もっていた。
 夏場に頼むアイスココアは絶品だったが、そのおかけでそうそう頼むことはできなかった。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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