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2013.04.18

海のある街    ペーパーフィルター 14

 カップを持ったままぼくはリビングスペースのソファに腰を下ろして、ひと口含んでみた。
 苦かった。
 あのときの泥水のような苦さではなかったけどいい感じだ。わずかな酸味がアクセントになっていた。
 カップをテーブルに置いて、部屋を眺めた。
 彼女が必要な荷物はすべて持ち出してしまったから、なんだかがらんとした部屋になってしまった。ここだけではない。家全体ががらんとして、ぽっかりと穴が空いたようになっている。ぼくだけでは埋めきれないスペースがこの家の中にできてしまったようだった。
 広がる珈琲の香りもこの空いてしまった隙間を埋め尽くすことはできないようだ。
 ぼくはなにかを失ったのだろうか?
 それとも自分でも気がつかないほど深く傷ついているのだろうか?
 珈琲に口をつけた。
 苦い味が口の中にゆっくりと広がっていく。
 たぶん生きてきた半分ほどの時間を、彼女とは一緒に過ごしたことになる。その彼女がぼくのところから去っていった。すれ違いはじめたのはいつの頃からだろう?
 逗子に引っ越しをしたのは三年ほど前。それまで重なるように寄り添っていたふたりの人生の道がゆっくりと距離を置きはじめたのだろうか?
 いや、そうじゃない。すれ違いは引っ越しをする前からあったのだ。
 もしかすると寄り添っていたように思っていたのは単なる錯覚で、別のアングルからふたりの人生という道を見てみたら距離があったのかもしれない。それに気がつかなかっただけなのかもしれない。
 まったく見知らぬ土地に引っ越しをして、日常を取り戻す間にふたりの関係も元に戻ればいいと楽観的に考えていた。
 実際にふたりの関係をやり直そうということでなく、新しいなにかをはじめるつもりで、ぼくは逗子での暮らしを考えていた。
 彼女はどうだったんだろう。
 いまさら訊くわけにもいかない。
 別れたいといわれたときも、その理由をきちんと訊くことはしなかった。
 それはきっと彼女のココロのうちを知ることが怖かったからだろう。
 ぼくは自分なりにいろいろと彼女の理由を考え、そしてぼくも別れるべき理由をいろいろと探して、そして納得して離婚届に判子を押した。そのはずだった。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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