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2013.04.17

海のある街    ペーパーフィルター 13

 ここからが真剣勝負。
 そんなつもりでポットを持ち上げる。
 粉の真ん中にゆっとくりとお湯を落とす。可能な限り細く、そっと置いていくように注ぐ。挽き立ての粉がまるで生き物のように膨らんでいく。
 できたらサーバーに落ちない程度のお湯の量を最初に注ぐ方がいいらしい。でも、プロじゃないからそのあたりの加減はむずかしいよな。
 今回はちょっと注ぎたのか何滴か落ちてしまった。
 サーバーを取り出すと、中のお湯や落ちてしまった雫を捨てて、ふたたびドリッパーを上に乗せる。
 三十秒ほど蒸らしたら、今度はのの字を書くようにゆっとくりと注いでいく。萎みかけた粉が再びゆっくりと膨れていく。
 やがて珈琲がサーバーに落ちはじめる。
 さらにのの字を意識してお湯を注いでいく。膨れた粉がフィルターから零そうになると、いったんお湯を注ぐのを止める。
 確か、お湯を注ぐのは三度だった。
 そうやってていねいにお湯を注いだ。
 注いだお湯がすべて珈琲になってサーバーに落ちきると、ドリッパーを外す。淹れ終わったあとのフィルターの中を確認してみる。お湯がすべての豆に行き渡っていると綺麗な崩れ方をするはずだ。
 今回はちょっとだけ形が悪かったかもしれない。
 なに、久しぶりだからこれは仕方ない。そう自分に言い聞かせた。
 ドリッパーを取り去ったサーバーから湯気が立ち上り、珈琲の香りが広がっていく。それをお湯で暖めたカップに注いだ。
 艶のある黒い珈琲で満たされたカップ。
 ぼくはそっと鼻を近づけ、眼を閉じるとその香りを楽しんだ。
 馥郁とした香り。
 過ぎていく時間が濃くなっていくようだった。とてもいい香りだ。

※この物語は、私小説と与太話の中間のようなものだと思ってもらいたい。
 実在の人物や、実在のお店などが出てきても、あくまでもフィクションです。

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